スーザン・A・クランシー 『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』第2回

Clancy, S, A. 『ABDUCTED』の邦訳版。

性的虐待についての”回復された”記憶の研究を行っていた研究者が、

その”回復された”記憶をより安全に研究する方法として選択したのが、

「エイリアンに誘拐されたと思っている人の”回復された”記憶」についての研究であった。


第2章は、『なぜエイリアンに誘拐されたと信じるようになるのか』。

著者は、まず、アブダクティーに、アブダクションの詳細な記憶はないことを示すが、

これは、著者が言い出したことではない。

アブダクティー自身が言っているのだ。

つまり、「エイリアンが記憶を消した」、「耐えられないような記憶だったので、抑圧した」と。


そこで、疑問が出てくる。


『では、なぜ、そう信じているのか?』


著者は、アブダクティー達のインタビューから、

アブダクション信仰は異常だと思えるような体験をしたあとに、生じていることを発見している。

たとえば、背中に覚えのない痣といった体の特徴から鼻血などの身体症状、記憶のない具体的現象、性格特性。


これらから、アブダクションは原因帰属(現象や行動の原因・理由をある特定の要素にもとめること)であると、

著者は述べる。


それでは、さらなる疑問。

『では、なぜ、アブダクションに原因帰属をするのか?』


多くのアブダクティーが証言する「起きているのに動けず、周囲に何かの存在を感じ、体に電流が走った」という現象は、

すでに解明されている睡眠麻痺という、誰にでも起こりえる現象である。


その他、帰属をおこなうための現象はいくらでもある。

なのに、「なぜ、アブダクションなのか?」


著者は、この問いに、

アブダクションは、"知っていると思っている"ことに一致するからである。」と回答する。


どういうことか?

多くの人は、睡眠麻痺や不安障害、性機能障害などについて、知識もなく、それらを支える科学的素養も十分ではない。

だが、エイリアンやエイリアンによる誘拐などは、すでに多くの人が知っている。

そのため、アブダクションは、原因帰属先として有効となりうる。

そして、多くの人は、体験談を証拠として見なす。

そのため、他の解釈可能な現象の原因帰属として、"証拠のある"アブダクションを選択する。


もちろん、科学は体験談を証拠とはみなさない。

厳密な客観性、つまり、測定可能性、再現可能性、普遍性、反証可能性を掲げる科学では、

虚偽可能性、つまり、"嘘のつける"体験談は、客観的事実を何ら保証するものではないのだ。



著者は、回答者の94%が知的エイリアンの存在を信じているというデータを挙げ、

その上で、知的エイリアンの存在可能性について、疑問を投げかける。


 だが、とりあえず、人間以外の生命が宇宙のどこかに存在すると仮定してみよう。
 その生物が知能を持つほどまでに進化する確率はどれくらいだろう。
 (中略)
 地球は、生命体に適した惑星で、だからこそ生命体はここで誕生した。
 (中略)
 が、知性を自覚している生物はひとつしかいない。


また、仮に、そのような知的生命体が存在したとしても、

「なぜ恒星間の距離を飛んでこられるほど高度な技術を発達させたのか」

「なぜ、そんなことをするのか」

「なぜ、とりわけ人間に興味をもつのか」

卵子や精液のサンプルを採ることに興味があるのか」

「何度も同じようなものを人間から採取するのは、なぜか」

など疑問は尽きない。


それらの疑問を提示した上で、著者は、エイリアンが

 医学的な実験や遺伝子の実験のために人間を誘拐するという話は、とてもありえそうにないだけでなく
 ―じつにばかげている

と述べる。


しかし、アブダクティー達は、"感じた"のだと言う。

"私は、体験したのだ"、と。


アブダクションが事実ではないと証明はできない。

ただ、アブダクティーやビリーバーの提出する証拠では、

アブダクションが生じたとは十分に言えないと主張するだけである。


アブダクティーは、一度、アブダクションという原因帰属を行うと、

補強するための"証拠"を集め始め、そして、アブダクションを強固にしていく。

つまり、確証バイアスである。


アブダクティー達の主張、仮説は、科学的には意味がない。

Popperが提示した科学の定義の1つである反証可能性がない。

よって、科学的意味は無く、信仰である。


しかし、我々は"現実"に生きている。

「客観的事実によって裏付けられているか?」

そんなものは、生きている現実では、さほど大きな問題ではないのだ。